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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
十
」
「私ゃもうぼけてしまって物わすれをするからね、確には覚えていないが、お待ちよ、そういや、お湯屋でちらりと聞いたようにも思うね。」
「は、何しろ居まわり大騒動。」
十
「いずれそれ、焦ッ臭い焦ッ臭いがはじまりでさ。隣から起て出ると、向うでも戸を開ける。表通じゃ牛込辺の帰りらしい紋付などが立留まる。鍋焼が来て荷をおろす。瞬く間に十四五人、ぶらぶらとあっちへこっちへ。暗の晩でね、空を見るのもありゃ、羽目板を撫でるのもあり。
その内に、例のかみさんが起きて出て、きっとだよ、それじゃ、とすぐに狐床の前へ行った時分にゃ、もう蒸気を吐くように壁を絞って煙が出るんで、けたたましい金切声で床屋さん、親方! とこんな時だけの親方、喚いても寂として返事がないんで、構わず打壊せッて、気疾なのががらりと開けると、中は真赤、紅色に颯と透通るように光って、一畳ばかり丸くこう、畳の目が一ツ一ツ見えるようだッたてこッてす。
台所へ行く柱なんざ、半分がた火になって障子の桟をちょろちょろと、火の鼠が伝うように嘗めてました。と哄と、皆が躍り込むと、店へ下り口を塞いで、尻をくるりと引捲って、真俯伏せに、土間へ腹を押ッつけて長くなってのたくッていたのが野郎で、蹴なぐって横へ刎ねた袷の裾なんざ、じりじり焦げていましたとさ。