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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
これというのも常日ごろ、捕手頭としての雷横には、多年の間、なんら諸民の怨みは買ったようなこともなかったのみでなく、官権を振廻したり私腹をこやすなどの不正もなく、親孝行者と知られ、弱い者には親切で男気なということが、ふかくこの町一般の者に根ざしていたからにほかならない。
かつはまた、下役や同僚の間にも、人望があったから、今日の懲罰の番人に当った者も、じつは、心ならずもとしている風がありありと見えていた。そのうちに、人もまばらな午過ぎになると、番の一人が、そっと幟竿の下へ寄って来て、
「おかしら。……我慢しておくんなさいよ。今夜一ト晩だけのことだ。……それにしてもおかしらは、何もご存知なかったんでございますね」
と、思いがけないことをふと雷横に聞かせてしまった。
「えっ? 俺が何も知らなかったとは一体どういうわけだ」
「こんど赴任して来た新知事と、ここの女とのわけ合いでさあね」
「女」
「ええ。女太夫の白秀英と、こんどの知事とは、もうだいぶお古いレコなんですぜ。何しろ美い女でさあネ。こんな田舎へ小屋掛けに来る芸人じゃあねえ。それが来たっていうのは、つまり自分の情夫旦那がこの土地の知事さんになって来たからのことなんでしょ」