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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「軍師。じつに辟易しましたな。いったい、何であったのでしょう? 今日の異変は」
と、宋江の驚き顔に、呉用は沈痛な声で答えた。
「察するに、高廉は妖法を使う術者でしょう。よほど道教の方術――すなわち幻術を――修得した妖人に相違ない」
その夜、宋江は、陣幕に灯を掲げて、独り例の天授の「天書三巻」をひらいてみた。内に“破邪ノ兵法”一巻がある。それには“破術破陣ノ法”があり、また“回風返火ス法”も見えた。
「よし」
彼は自信を持ち、あくる日、さらに鼓を鳴らして、城門へ迫った。
けれど、この日も、次の日も、梁山泊軍はさんざんに破られた。なぜならば、高廉の妖法は、ただ宇宙の天色や気象に異変を呼び起すだけでなく、忽として、炎を大地に生ぜしめ、また大洪水を捲きおこし、そうかと思うと、豺狼、豼貅、虎豹などの猛獣群を、一鞭の下に呼び出して、これを敵のうちへ追い放つなど、千変万化、じつに極まりのないもので、宋江が身の護符としている「天書」の活用も、これには、ほとんど用をなさないからであった。
こう出たら? ああ突いたら?
とかくして、戦い十日、兵は半数に減ってしまった。宋江も呉用も、いまは面目なくて、このまま梁山泊へも帰れなかった。