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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「ちょっと、伺いますが」
と、ひとりの樵夫を見かけたので、戴宗が訊いた。
「一清道人の庵室はどちらでしょうか」
樵夫は、白雲のうず巻いている峰と峰との間をさして。
「一条の白い滝が見えまっしゃろ。あの下の細道をめぐって、南へ出ると、山の角に、琴のような石橋がありますわな。そこらでもいちど訊きなされ」
その通りに行ってみると、上の杣道から山の果物を手籠にして降りて来た女があった。女は振り仰いですぐ教えてくれた。
「ほれ。あそこに、柱が十本も並んでいる草舎の廊がある。あの廊の端れに見える小さいお堂がそれでございますよ」
「ありがとう。して、一清道人はおうちでしょうか」
「ええ、今日はたしか、裏で丹薬を練ッてござらっしゃッたが」
思いはとどいた。戴宗は胸もわくわくそこへ近づいた。しかし、李逵は遠くへおいて、彼ひとり草庵造りの家の扉へ寄って行き、
「ごめんください。ごめんください」
と、訪うこと数度であった。
何処かでは、淙々と水のひびき、松籟の奏でがしている。それに消されてか、いつまでも返辞はなかった。するうちに、
「どなたじゃの」
内の葭すだれをサラと掲げて、白髪の媼がふと半身をあらわした。