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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

陽もすでに黄昏れごろ、智深は、天雲を降りて天雲へ帰るがごとく飄々とひょろけつつ五台山へもどっていく。途中でぶつかりかける男女を見ると、彼らの逃げまどう姿へ、哄笑を撒きちらして。

「わはははは。さあ、智深さまのお通りだぞお通りだぞ。酔いどれには天子さまも道を避けるという諺があるのを知らんか。さあ、退いたり退いたり」

翌朝のことである。――といっても、五台山五峰の西にはまだ影淡き残月が見え、地には颯々の松原がやっと辺りを明るみかけさせて来た頃だった。

「うう寒い。……おや、おやおや。わが輩はどうしてこんなところに眠っていたのか」

智深はわれを疑って、むっくりと起きた。寒いはず、石だたみの上で寝ていたらしい。しかも自分が抱いて眠っていたのは、自分の二倍もある巨きな仁王像だった。山門の仁王様に相違ない。

ふと仰ぐと、日ごろ見なれたそこの仁王門は颱風の跡みたいに、見るも無残に破壊されており、もう一体の仁王像も、常に居るところには見えなかった。だんだんそこらが白んでくるにつれて、仁王の手やら首やらまた瓦だの玉垣の破片などが、惨として、智深をつつんでいることがわかった。