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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「はははは。わしは軍人だ。そんな者に恐れはせんよ。おう酒がなくなった。あとのを、あとのを……」

呼延灼は、ついつい、手酌をかさねて、したたかに酔ってしまった。さいごに、飯をと亭主が揺り起しても、そこの卓に俯伏したまま、どっと疲れも出て眠り入ってしまった態だ。

ところが、亭主の子であろう。吩付けられて、飼糧桶を抱え、裏から軒の外へ廻って行った童子が、そこで、すッ頓狂に、わめいていた。

「馬がいないよ! 馬がいないよ! おとっさんお客さんの馬って、どこにいるのさ」

「げッ、いないって?」

「馬糞だけだよ、ここにあるのは」

「もう盗られたか」

「攫われたんだね」

「風の仕業だ、まるで黒い風の――」

この騒ぎに、呼延灼もガバと目をさまし、

「なに、烏騅が」

と、飛び出して来たが、夜は暗々、地の理はわからず、それに飲んだ酒が、顔には一瞬に冷めながら、こめかみの辺では、ぐらぐら、眸の裏側を、沸らせている。

「亭主、桃花山は、どっちの方だ」

「どっちといっても、とてもだんな、間に合やしません。さきは盗んだ馬で一足跳び。おまけに、そいつが脚の早い名馬ときては」

「恩賜の名馬なのだ。