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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「おん僧は、そも、どちらからお出でになられましたか」

「わが輩か。わが輩は見たとおりの旅僧さ。いってみれば、天涯無住だ」

「おそらくは、由緒あるお山のご高徳でいらせられましょう。ぜひ、一夕のお斎なと差上げて、ご法話でも伺いたいと申されますが」

「誰がよ」

「お奉行さまが」

「ははアん。じゃアいま先へ行った輿轎は、やはりここの奉行だったのかい。……どうもそんな臭いがと、思って尾けて来たんだが」

「何かお奉行へ御用でも」

「さればさ。ちょっくら会って、話したいことがあってね」

「それはまことに好都合です。お奉行はいたって仏心の深いたちで、有縁無縁によらず、旅の法師とみれば官邸に請じて、何がな布施のお徳を積まれるのが、まアお道楽といったようなお方。それでは、どうぞてまえとご一しょに」

と、案内に立つ。

こんなうまい機ッかけがあるはずのものではない。けれど魯智深は、渡りに舟とよろこんでしまった。――そして宏壮な一門に入って行く。すると当然、腰の戒刀と錫杖も「……お預かりを」という奥向きの侍に、つい預けるほかなくなってしまい、丸腰となって、さらに中廊下を深く一殿の内へ通された。