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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
……へい、お内儀さまへもようおつたえ申しあげておきまするで」
李固はおちつかない。片時でも早く帰りたい帰りたいの一念らしい。翌朝、彼は早くも鴨嘴灘から船に乗りかけていた。すると子分の一人が来て、あちらで軍師さまが番頭さんを呼んでるという知らせ。行ってみるとなるほど昨夜の呉用が楊柳の根に腰かけて待っていた。
「や……李固か、ご苦労だな、こんどは」
「どういたしまして、して何の御用で?」
「じつはだな。深い仔細は知るまいが、もうおまえの主人は、ふたたび北京へは帰らんのだぞ」
「えっ。ほ、ほんとですかえ」
「おはなし合いの結果、梁山泊で第二番目のおかしらの座に坐ることにきまったよ。これはわれらの懇請にもよるが以前からあのお方のお望みでもあったのだ。その証拠には、帰ったら主人の部屋をよく調べてみるがいい。遺書の詩を書いた物が残っているはず。ただし世間には口外せぬ方がお前らにとっても身のためだろうぞ」
李固は「ひぇっ※(感嘆符疑問符、1-8-78)」と呆れたり驚いたりであったが、ぼっと妙な血色を、どこか顔じゅうに騒がせた風でもある。とまれ釣針を抜けた魚みたいに、蒼惶として、この日、江を渡って北京の空へと先に帰り去ってしまった。