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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

その日まず、管領の梁中書の公邸にちかづいてから、連日、あらゆる手をつくして暗躍にかかった。

ところが一方、副官や与力の張は、蔡福から少なからぬ袖の下をおさめていた。で、何やかやと判決は遷延してゆく。それはいいが自然、北京府内では、おもしろからぬ噂も立つ。盧俊儀その人への日ごろの人望やら同情なども抑え難い。で、梁中書も考えた。

ここで読者は、この梁中書について過去の一事件を思い出されているであろう。かつて、都の蔡大臣の許へ、その誕生祝として、夫人の名義で、時価十万貫にものぼる金銀珠玉を送り出させたあの大官である。そのときの輸送使が、かの青面獣楊志であったのだ。ゆらい梁山泊とは宿怨浅からぬ官憲の大物といってよい。それだけに彼は、盧の処分には慎重をきわめたのだ。盧に同情のつよい北京において、万が一にも、ぼろを出しては、はなはだまずい。

「そうだ、千里の先なら、耳の外だし、風まかせ」

ついに、流刑の断をくだしたのである。さきは終身刑のみが送られる滄州沙門島の大流刑地。護送役の董超、薛覇という二名は、これまた、かつて林冲を都から差立てたことのある端公だ。あれ以後、林冲が逃げた滄州事件のとばッちりから高大臣の不興をかい、この北京へ左遷されていた者たちである。