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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「わかりました」
万端、のみこんで、燕青が店の者をまろめ、元の二階へ戻って来てみると、もう柴進は自分の衣服に着かえて、借物の花冠や官服などは、そっくり王の体の上にかぶせてある。――王はまだ、昏々と、麻酔からさめていないのだった。
彼が正気がついたのは、日没の頃である。何が何だか分らない。また何一つ失くなっている物もない。恥かしいのか、給仕人のことばもそら耳に、衣服や冠を着直すやいな、あわてて店のそとへ出て行った。
その王は、あくる日、自邸で客の口からふとこんな噂を聞かされた。
「なにしろ奇ッ怪なこともあるもので、叡思殿のお屏風から『山東宋江』の四文字だけが、何者かに、切りとられているというのです。いやもう禁門の内外は、そのご詮議でたいへんらしい」
「ほほう?」
さてはと、王は、背すじの顫えにぶるッとしたが、一切、口には出さなかった。
一方の柴進は、はたごへ帰ると、さっそく宋江へ「山東宋江」の宸筆を見せ、またつぶさに、禁裏の様子もはなして聞かせた。
宋江は、宸筆を見て、ああ……と浩嘆してやまなかったが、明ければ十四日、この黄昏れを外してはと、まつりの人波にまぎれて、城内の中心街へ入りこんでみた。