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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
行司は、観衆へ向って、もいちど開催を告げ直し、両力士に対しては、相撲道の宣誓文を読み聞かせた。「遺恨を残すまじきこと」「卑怯の手を用いまじきこと」等々、七ヵ条ほどな誓約である。終ると、再び観衆の方へ、
「片や、任原。片や山東の張」
と、名のり触れを触れ渡し、
「用意ッ。見合ッて!」
と、先がササラになっている青竹で舞台の床を大きく叩く。さっと、それが阿のあいだに上がるのが合図だった。
いちめん、狂瀾のような声がわき起った。見物はまったくもう酔ッているのだ。任原の巨体はいきなり飛込んできた燕青の体を脇の下に抱きこんだまま身ゆるぎもしていない。ジリと二、三寸は踵がうごくかと見えただけである。刻々と、燕青の皮膚の色が変っていた。見物はそろそろ案じだした。このまま息のねを止めてしまわれるのか。相撲もこれだけのもので終るのかもしれない、と。
が一瞬に、二つの体は相搏ッて反りあっていた。燕青の仕掛けが効いて、さしもの任原も腰をちょっと浮かせたらしい。間髪、さらに隙を突いて、燕青の肩か頭が、相手の鳩尾へ体当りを与えたかと思うと、任原は二ツ三ツしどろ足を踏んでよろけた。