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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
いよいよ罪人押送の日となって、開封奉行所の門を一歩出てきた林冲の姿は、もうこの一と月ほどで肉落ち頬骨あらわれて、足もとすらもなよなよしていた。その日、往来に群れなしていた街の男女や縁故の見送り人たちも。「……これが昨日までの林師範か」と、涙を催さずにいられなかった。
人目を浴びつつ、やがて州橋を越え、都関も出ると、また一群れの人々が待っていた。すると中から林冲の妻と、妻の父が走り出てきて、
「おお聟どの。……待っていた。しばしの別れを、あすこの酒店で」
と、馬子茶屋みたいな店の奥へみちびいた。もちろん、これにはお定まりの賄賂が充分とどいていること。で。そこでの限られた寸時の別れをお互いに泣いて惜しみあう機会はえたが、しかし、妻は身も世もなく、林冲の胸に涙の顔を埋めて離れない。すでに「――時刻、時刻」と、戸外の護送役人が喚き立てても、離れようともしなかった。
林冲は、眦をふさぎ、ここに観念の臍をきめて、わざと酷くいった。
「いつまで、嘆きあっていても、別れはつきない。また、深く考えてみれば、恋々と泣き濡れているだけが愛情でもない。おそらく、この林冲がいなくなれば、高御曹司が、そなたの身や、お舅の上に、またあらゆる毒手を加えてくるだろう。