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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
洪は、ただ、唖々唖々と、腑抜けみたいに、手を振って、よろめき歩いた。一山の騒動はいうまでもない。だが、下手人が勅使では、罰することもならず、三清宮の院主は、いとも嘆かわしげに、うつろな洪大将の顔へ、こう言いわたした。
「はやはや、ご下山くださいましょう。ぜひもなし、あとは虚靖天師のお帰りを待つのみです。したが、あの祠の窟には、三十六員の天星、七十二性の地星、あわせて百八の魔が封じられていたものを、あなたさまはまあ、恐ろしいことをなされたものでございましたな。物好きにも、護符の禁を破って、人の世の地上へ、百八の魔をばら撒いたからには、行く末、どんな世態を見ることやら、いまから身も縮む思いがされます。――せめて、以後は生涯、ご信心にでも身をお捧げなされませい」
道教では、この宇宙を、魔界と仙界の二元からなるものと観て、北斗、太極、二十八宿などの星座を崇め、それは人の世の治乱吉凶禍福の運行とも、密接なつながりがあるものとしている。
だから、天体中の徳星は、これを崇め、邪星妖星は、仙術の咒をもって、封じこめておく。――古来、龍虎山上清宮の道祖代々が、そうして、せっかく人界平和のために、道行を積んできたのに、ついに今日、百八の魔星を歓呼させて、もとの世間へかえしてしまった。