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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「そんなことをいったら、どんな人間でも疑えば限りがありませんわ。それにもう日がないじゃございませんか。楊志を召して、お命じになったら、どうですの」
「そなたさえ承知なら、楊志でよかろう。いや、いくら熟考しても、結局は楊志だな。あの青面獣のほかにはあるまい」
「じゃあ、すぐそれをお鳴らししてください」と、蔡夫人は、廊廂に吊ってある喚鐘を指して、良人へ命じた。
梁は、この妻の父蔡大臣のお蔭で立身した者であるから、平常も夫人にはとんと頭が上がらない。唯々として、立って喚鐘を打ち鳴らした。と――すぐ中門外の衛兵が、姿をあらわして庭上に敬礼した。
「青面獣楊志に、すぐ参れと申せ」
「はっ」
衛兵が退がる。まもなく入れ代って、階の前に来てぬかずいたのは、これぞかの北京城の大演武場で十万のつわものの眼をそばだたしめた青面獣その人だった。
「楊志。――そのほうを見こんで、このたび、重大な使命をさずくるが、身命を賭して、やってくれるかどうか」
「ご恩のあるお方の仰せ、いやとは申しません。けれどこの楊志にできることか否か、その辺も伺ってみぬことには」
「わが夫人蔡氏の父蔡大臣の誕生祝いの品を護って、東京までつつがなく送り届けてほしいのじゃ。