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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
小便する間もオチオチしていられねえほど、歩け歩けと急かついている奴がよ」
「変だな。七月十五日、七月十五日と、都へ着く日を、呪文みたいにいってるかと思うと、急に、朝寝の遅立ちとは」
「なんでもいいや。寝ている間だけがこち徒の極楽だ。なんとか生命だけ保って、開封東京に着きさえすれば、まさか帰りはこんなこともあるめえ。もうもう来世は金輪際、兵隊にはなるめえぜ」
翌日からは、朝は遅く、夕は早着き。日盛りの旅だけが、以後十数日もつづいた。
これだけなら、彼らのぼやきも減っていただろうが、楊志の思案は、野盗山賊の出現を避けるにあり、七月十五日までの期日に、余裕が出来たわけでもないから、日中の間に、それだけの足稼ぎを生みだすべく、前にもまして、苛烈なムチをふるったのはいうまでもない。
「なに、水が呑みたいと。我慢しろ、我慢しろ。水は汗を多くするばかりだ。口に梅の実を噛んでいると想え」
「そいつア無理だ。いくら梅の実を想ったッて、唾は出ねえ」
「これでも出ないか」
楊志は、籐のムチで、風を切って見せた。
「きさまらは、毎夜、寝飽きるほど寝かしてあるじゃないか。贅沢をいうな」