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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
命が要らないわけじゃありますまい」
「といったッて、清河県へ行くには、この峠を越さずにゃ行けねえ」
「だから峠先きへ行く道づれを待って、二、三十人になったら、松明を先頭に、わいわい囃しながら押し通ることにしているんでさ。――お上の高札にも、夜明け、明け方、午でも一人歩きはならぬと、辻々に書いてあるじゃございませんか」
「そうだったかなあ。俺は見なかった。どウれ、それじゃあ虎が虎にご見参と出かけようか」
「あれっ、強情ッ張りだな。旦那、旦那。食われたって知りませんぜ」
「おれが食われたら、骨はきさまにくれてやる。茶代に取っておけよ。はははは」
彼の笑い声は、もう麓の木暗がりへ入っている。亭主は耳をおさえて舞い戻った。
景陽岡の虎、武松を英雄の輿に祭り上げること
麓道二十町ほど行くと、鬱蒼たる山神廟の一地域がある。
そこからが、景陽岡の峠路だった。
武松が酒屋を出たころは、まだ午さがりまもなくだったが、蹌々踉々の足どりのまに、いつか千古の樹林の先が血みたいな夕陽に染まり、そのくせ足もとはもう陰々とほの暗い。
「ははあ、こいつだな。県の告示ってえのは」
見れば、高札にいわく。