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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

つい隣県だ。いつでも会えよう。……では、書記、武松は今日から都頭に任じるぞ。さっそくその手続きをはこんでおけ」

武松は、この出世も、事の弾みみたいな気持ちでただ「オヤオヤ」と言いたげだった。あんまり欣しそうでもない。

四、五日は県の庁舎で身を休めていた。会う人、会う人から、祝福されたり虎退治を賞めそやされる。そのたび彼はむず痒そうな顔をして、

「やあ。どうもねえ。やあ」

とただ、頭を掻いて、柄にもなくテレるのだった。

そうした或る一日のこと。

庁舎を出て、用もないまま町の公園をぶらついたすえ、子供らの騒いでいる鞦韆のある遊び場までくると、そこの一隅に荷を下ろしていた、うすぎたない饅頭屋の小男が、

「あっ。……武松じゃないか」

と、立ったとたんに足もとの天秤棒に蹴つまずき、そのまま身を泳がせるように寄って来て抱きついた。

「あれっ?」

武松は唖然とした。いや次には、顔を笑み破って、やにわに、背のずんぐり低いその饅頭屋の双肩へ両手をかけた。

「兄さんじゃないか。一体どうしたんですえ。こんな所で」

「武松よ。ああやっぱり弟の武松だったか。面目ない」

「泣きなさんな、こんな道ばたでよ。