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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
まさか兄さんがこの紫石街に来ていようとは思わなかった。何か清河県の生まれ故郷に、まずいことでもあったんですかえ」
「何も悪いことなんかしてないさ」
「そうだろうなあ。自体お人よしな兄さんのことだもの。じゃあ借金のためにでも」
「うんにゃ。女房をもらったからだよ」
「女房を娶ったために土地をかえたというのも、おかしなはなしじゃねえか。俺には腑に落ちかねるが」
「話せばわかる。弟よ、こっちへ来てくれ。こういうわけだ」
と、兄の武大郎は、彼をつれて元の位置に返り、商売物の揚げ饅頭の荷担をうしろに、公園の池へ向って坐りこんだ。
一つ腹の兄弟だったが、武松は以前から「兄貴は人がいい。おまけに醜男だ、体も畸形だし、なんてえ気のどくな……」と、逆に、目上の兄を不愍がっている。
だから子供のじぶんから、近所の童仲間が、
「ぶだ! ぶだ! ちんちくりんのぼろッ布れ」
などといって揶揄うと、いつも武松が怒って相手をこッぴどい目にあわせて懲らした。――長じて、大人になってからも、そんな例は何度もある。だから武松が草鞋をはいて他県へ飛び出さない前までは、武大も人から馬鹿にされずに庇われていた。