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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

どうすれば男が歓ぶかを知っている。

泊れ、泊れと、夫婦してすすめるのを謝して、武松は深更に帰って行ったが、あくる朝、眼をさましてから、ゆうべ酒の上で兄夫婦と約束して帰ったことを思い出し、さっそく県役署の知事室へ行き、知事に会って、諒解を求めた。

「閣下、じつは偶然なんですが、この街で、久しく別れていた兄に巡り会いました。四方山の話のすえ、強って家へ来て家から役署へ通ったらどうだと親切にいってくれるのですが、よいでしょうか」

「実兄の家に下宿して、そこから通勤したいと申すのか」

「はい、幼少から一つに育って、とかく淋しがり屋の兄だもんですから」

「よかろう。引っ越しには従卒にも手伝わせるがいい」

一方、武大の家でも、階下の一間に寝台を入れたり壁紙を貼り代えなどして、にわかな歓迎ぶりである。やがて引っ越しの日には、荷物は少ないが、武松は従兵三人に、手車など曳かせてやって来た。近所隣では眼を瞠る――。

「じゃあ兄さん、今日からご厄介になりますぜ。嫂さんにも一つよろしくおねがいします」

下宿もただの下宿屋と違う。これから一つ屋根の下ぞと思うと兄弟久々に愉しげである。