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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「えっ。あの虎退治をやった弟の武松が、もう程なく帰る時分なのか。こいつあ、なんとか今のうちに」

と、さすが穏やかならぬ風もある。

「旦那え……」と、婆はその耳へ顔を寄せて「もう待てやしませんよ、なんとか、ここでご思案をきめなくては」

「といったって、おれの身じゃ、金蓮と手に手をとって道行きということも出来やしないよ」

「ですからさ、きのうもちょっと、お耳に入れたじゃありませんか。旦那のおたくは薬種問屋、砒霜なんかもおありでしょう」

「あ、あれか」

「毒をくらわば皿までとか。一服そっと、金蓮さんにお預けなさりゃあ、なあに惚れた旦那のためですもの。きっとうまくやりますよ」

ここに、恐るべき相談が、金蓮も加えて、三人のあいだに成りたっていた。知らないのは、武大だけである。いや、ろくな食餌も医薬も与えられているではなし、武大は青黒く眼を落ち窪ませ、意識もすでに普通ではない。

「……あなた、何か美味しい物でも喰べないこと。……ねえ。仰っしゃって下さいよ。わたし、つくづく悪かったわ」

或る日彼女は、良人の枕もとに顔をよせて、さめざめと泣いてみせた。

「ねえ、あんた、ゆるして……」