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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

そのうちに早や、小役人あがりの酒屋の胡正は「……こいつは、あぶない」と勘づいたらしく、浮き腰を上げて、辞しかけた。

「どうも、どうも。今日は飛んだご馳走さまに。……ええと、ところで都頭さま、あいにく、よんどころない用向きを控えておりますで、手前は勝手ながら、お先に失礼させていただきまする」

「なに、お帰りだって」

「へえ、なんとも忙がしい体なので」

「待った。そいつあいけねえ」

胡正の尻ッ尾について、葬具屋の趙もあわてて立った。

「そうだ、あっしも、急用があったッけ。都頭さん、申しわけございませんが」

「駄目だよ」

「でも、じつは」

「坐れっ」

武松は、隊で号令をかける時のような声を発した。が、すぐ顔を直して。

「とにかく、せっかくお越しいただいたんだから、しまいまでいてもらいましょうぜ。こら従卒、ご一同へお酌せんか」

「はっ」

兵は、卓のまわりを酌ぎ廻った。――気がつくと、ほかの二人の従卒は、裏と表の口を立ち塞いでいる様子だ。いくら酌がれても、これでは飲めたものではない。近所の顔と顔の一トかたまりは、みなベソを掻き掻き、いやおうなしに、ただ杯を上わの空に、上げたり措いたりしているに過ぎなかった。