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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
どうぞお気もちを直して、せめて一日半夜だけでも、一同の心を酌んで、ここにおいで下されたい」
それまでを振り切ることもできなかった。で、当夜は静かな酒もりに囲まれ、明けるやいなや、はや別れのことばを交わしていた。
別れにさいし、軍師呉用は宋江のために、一通の手紙を用意しておき、こういって手渡した。
「江州に一畸人がいます。自分とは古い知りあいで、苗字を戴、名を宗といい、長くその地で牢節級(牢人の役長)をつとめておるところから、通称、戴院長とよばれておる。――この男、義理がたいだけでなく、一日によく八百里を歩くという稀代な道術を持っていて、人からも愛される風をおびています。もし折があったら、いちど会ってごらんなさいまし」
その朝、宋江は、江上を船をつらねて見送られた。その上さらに、陸上二十里まで送ろうという一同の好意を、宋江は強って断わり、そのまま二人の端公に追っ立てられつつ、一路江州への道をいそいだ。
道は遠い。江州はなお遥かだ。けれど護送役の二人も、今は今さらの如く、宋江の徳望とその人柄にはびッくりしている。為に、およそ主に仕える小者のような善良さで道中小まめな宥りをつくしていた。