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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
蔡九は、宋朝廷の権臣、蔡大臣の息子なのである。そこへのご機嫌伺いを、せっせとやっている魂胆をみても、彼の腹はわかるというもの。
しかしこの黄文炳の評判はすこぶるよくない。多少の学をはなにかけ、下の者にはふんぞり返り、上には媚態おくめんなしという型の男である。それが今日もまた、奉行官邸へ伺候していたが、折ふし蔡九から、
「今日は大城の宴会で、ちと忙しい。晩にでも来い」
といわれ、黄は、いちど船へ引っ返していた。そして午すぎ頃、何の気なしに、江畔の潯陽楼へ上がって、
「おいおい、ほんの一杯だ。こってりした肴はいらんぞ。あとは茶漬でな」
と、横柄にいいつけていた。
金づかいは吝な客だが馴染みは古い。またそれを腹勘定に入れているこのお客さまだ。やたら小女にまで威張り散らしていたが、ふと白壁の書に目をとめて。
「おお、何だと。……少年、はやくに経史を学び、長じて、心に謀をえがくも? ……」
黄は、太い鼻息でうめいた。
「何、何。……このうらみ、この嘆、もし年ありて再び来らば、潯陽の水を紅に。……だれだろう。こんなものを恐れもなく書いたやつは、これは謀反の詩ではないか。