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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
玄女之廟
と、それは読まれた。
玄女、九天玄女。彼は口のうちで唱えながら、眼を天にやった。時刻は、はや真夜中らしい。月は中天にかかっていた。小さく、遠く、かかっていた。
宋江は環帯を解いた。そして腰の肌身へじかに、天書の三巻をくくって持つと、すぐ月の小道を馳け出していた。
ところが、玄女廟を去ることまだいくらでもないうちに、早くも彼の影は、人目につけられていたらしい。彼につづき、樹林の間を豹の如く追っかけていた六、七名の男がある。
「おおういッ。おういッ待てえ」
後ろばかりではない。三方でその呼ぶ声は谺し合った。宋江はたちすくんで、
「しまッた」
と、叫んだ。前面の断崖に、滝の音がする。ここは行きどまりの滝道であったのだ。
しかるに、天来の援けともいうべきか。わらわらと背後に迫って来た男どもは、意外にも、
「おうっ、宋先生じゃありませんか」
「そうだ、宋江さまだ」
と、口々に言いつつ、茫然とあきれ顔の彼の前に、
「ご安心なさいまし。梁山泊から来た赤髪鬼の劉唐でございまさ」
「てまえは、石将軍の石勇」
「催命判官の李立」
つづいて欧鵬、つづいて陶宗旺と、各※(二の字点、1-2-22)が口を揃えて名のりつらねた。