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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

こうしてまたたく二た月ほどは過ぎ、冬ぢかい秋の頃だった。

「ちと遠い村だが、豚、羊のいい売り物が出た。三日めには帰ってくるから店をたのむぜ」

「へい、行ってらっしゃい。旦那、そのお頭巾も着物も、さすがお屋敷の若奥様のお見立てで、よくお似合いになりますぜ」

「ばか。なにってやんで。肉切り職人は、暇があったら包丁でもよく磨いていろ。つべこべと、つまらねえ世辞などいうな」

出がけに、これが気色にさわった。そんな辻占も悪かったし、仕入れ向きはおもしろくなく、ついでに隣県まで足をのばして四日目に帰ってみると、なんと、店の戸は閉まっている。

「ああやっぱり? ……古の人はいいことをいっている。“人に千日のいい顔なし、花に百日の紅あらじ”と。……無理もねえ。兄貴は欠かさず役署づとめ。家のことはお構いなしの性分だ。そこへもってきて独り身のおれが、とかくあのきれいな義姉さんから、帯よ、頭巾よ、やれ肌着よと、あまやかされているのを知っちゃあ、近所の蔭口もそらおそろしい。そうだ、こいつを潮に身を退こう」

中へ入って、持ち金残らず精算書にして帳場におき。またべつに、ざっとした遺書一本書きのこすやいな、さっとそとへ飛び出しかけた。