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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
女は眸も気も霞み、怨めしげに重なっている上の眼を見すえた。細めているが艶を超えて生き物の極美を放つような虹が女の眼の中に沸るとみると、如海ははじめて心に誇りきっていたものを悠々と女の望むところへ充たした。
叫絶一喚、これは唐風な彼国の表情表現法で、わが国の春語のごとく、哭くとはいわない。
きょきょとして泣く。すすり泣く。などというのは特有な日本的閨房語で、極まるとき、一叫また一叫、叫ぶというのがあちらの男女の感受性らしい。「阿呀一声、身子已是酥麻了」といったような文字がよく見られる。前技、後技のことも、万国色道哲学における人類の研鑽はどこといっても変りはないが、その執拗度やねばりにおいては、多少、国情や体力の相違もあろうか。一研一擦、三深九浅、緊々縮々、などという表字法にみても、別してこの裴如海ひとりがそう傑出した色坊主であったわけでもあるまい。むしろ四囲の環境と、姦通の秘味と、またその折の巧雲のからだの条件とにこのさいは問題がある。
なにしても巧雲は、この一ト出会いに頭の芯まで忘れられないものに焦かれてしまった。となると、大胆さは男よりも女にある。