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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「そんなことがあったかなあ」

「旦那はお忘れでも、こっちは忘れたことはございません。……が、その病関索の楊雄ともあろうお人が、こんな所で何をそそくさなさっているんで」

「じつあ、おれはもう薊州の役人じゃあない。仔細があって、女房の巧雲を手にかけ、二人の連れと一しょに落ちてきたんだが、その道連れの時遷ってえ奴が、ゆうべ祝家荘の旅籠で“時報ノ鶏”を盗んで食っちまったという騒ぎさ」

「ははあ。聞いていますよ、朝火事のことは。聞けば、そいつがまた、竈の火を、家じゅうにぶり撒いたんだっていうことじゃありませんか」

「どうなのか、後はよく知らねえが、野郎一人、どうやら大勢に捕まってしまったらしい」

「捕まったのは確かでしょう。ここへ来る途中、毬くくりにされた男が一人、独龍山の方へ差立てられて行くのを見ましたからね。……だが、ご安心なさいまし。恩人のお連れの人なら、なんとか、救ってあげる工夫がないでもありません」

「ふうむ、そして君はいま、この土地で何をしているのか」

「言いおくれましたが、お蔭でその後、当地へ流れて来て、今では独龍山の地頭一族の一荘に、まあ浪人の用心棒格といった名目で、召抱えられておりますんで」