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にっき

日記

宮本 百合子

27 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,807 字 · 126 页

青空文庫

三月八日

餉台で飯をくって育つのが安心也。

三月八日(水曜)

この頃の生活のひどい遑しさについて沁々と考える。寿が尾崎さんが国へかえるから、夕飯をしてやる。国は、友人が徴用になったから夕飯にかえらない。自分は太郎を送って行ってやる。遑しさを分析してみると、自分が徴用にならず、自分が用なく、自分が国へかえるのではなくて、動いている。大いに考えるべきと思う。寿なんか自分のいどころもちゃんとしていなくて、ひとが国へ帰ることでいそがしいという心理は、何か今様めかしくあやしげなり、という風なものだ。自分のこころの遑しさを考えいやな気持だ。蟻のかたまりに大粒な雨のしずくが一つおちて蟻が黒く小さく右往左往する、ああいう感じ。日本の精兵は雀貝のように勇ましい、と。雀貝とはどんな貝だろう。大きい貝とも派手な貝とも思えず。一つ一つの雀貝こそあわれわが父わが息子なのである。

○尾崎かえるについて寿、ふさの部屋で夕飯こしらえる、自分もゆく。

この頃の夜、月美しい、月の光が肩にしみるように感じつつ灯かげのない夜道を歩いて来る、平和、ということを改めて感じ乍ら。

〔欄外に〕

荒木季子という女のひとは少々常軌を失している。