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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
九月四日
女の人では吉屋、林が加ります。菊池寛から片岡、武田麟太郎、瀧井孝作も釣竿を片づけて出かける由。
私は書きかけていた文学的覚書をつづけます。一月にゲラになってそのままある百二十枚ばかりのと合わせてこの二・三年間の文学の鳥瞰図が出来ます。この位まとめると、さらに改良すべき点、勉強を深めるべき点が一層はっきり眺め渡せて有益です。私そのものを、じかに読んでいる貴方というこわく、かけがえなき読者のために、私は最善の努力をつくしますよ。では又。
九月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
九月三日夜(土) 第四十八信
嵐のあとがまだすっかり直らなくて、街燈がついていない。そこここの板塀が倒れたまま。樹木もかしいだままです。そこへ何日ぶりかの月が澄んだ空に出ている。葉っぱを、すっかり嵐に揉みちぎられて、古いはたきのような形になった桐の梢の上に星が大きく光っている。
疲れた、あらされた地べたの上に、一片の月は輝いて、涼しい風も吹いているけれども、きょうの夕刊では、目下南洋から本ものの颱風が上って来ていて、五日の夜までには、この間の疑似よりもっとこわいのがやって来ると云っています。