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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
ところできのうは本当に悲観してね。何しろ私が帰ったのは十六日で、二十日がすんだらお目にかかりに出かけようと思っていた。そうしたら二十一日に関鑑子さんのお父さんが亡くなられたことを知り、二十四日の御葬式の日までお通夜その他で暮しました。如来氏は古い美術記者で、昔は林町の家の前の坂の中途に住んで居り私はユリちゃんと呼ばれている縁がある。中風に急な老衰でした。七十三歳。一葉だの紅葉だのというと明治文学史の頁の中でしか親しみのない存在であるが、如来さんと云えば鑑子さんの幸・不幸の密接な存在で、一つぐれると明日演奏会に着て出る長襦袢まで質へぶちこんで呑んでしまったりするが、又娘を愛し、誇り、娘の生き方を肯定しようとすることでも第一の人でしたからごく近くて人間ぽい。この如来さんのことを一葉が日記の中に書いている。素っぽこ袷に袴だけはつけていて気焔万丈だとか、よい女房を世話してくれと云ったとか。又『紅葉随筆集』に如来の美術批評集(五色? の酒)の序が入っている。それらの本の頁に大きい紙を挾んで一つ一つ見せてくれ、しかし著作の方は一つもない、ということで極めてよく表象されている一生でした。