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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

このことは、逆に見れば愈※(二の字点、1-2-22)私の作家的志向は、はっきりして来たことなのだから、腕のためにも仰云るような勉強は大切なことがよく判ります。職人的修錬の腕は元より問題外なのであるから。

「麦」については笑ってしまった。だって、読んで見て、樹を見て森を見ぬと私だって書いているのですもの。読まぬうちこそ情愛もたのしい期待も抱かせられたが。然し、読まないだって、と云われれば、それは又別ですが。これについては、私の方が「読んで見たのかい」と或一つの作品についての評価であなたから云われた場合があったから、五分五分ね(こういう表現を評して、返上辛辣とでも申しましょうか)。職業的ルポルタージュへの反撥が過重された評価の原因であるとはわかって居ました。

謙虚についても履きちがいはありませんから御安心下さい。自らを大切にし尊ぶことから生じる自重のみが謙虚への本道です。相対的に世俗的にへりくだることではないのだから。

すこし話は傍き道に入りますが、例えば貞潔ということ、謙虚ということ、或は克己ということ、それらを世間では、貞潔が必然となるような愛の質の側から、謙虚が結果する自重、人間尊重の側から克己が来たされるより大な生活目的の達成の努力の側からよろこびをもって自然に説かないのは、全く可怪しいことですね。