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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

05 一九三八年(昭和十三年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页

青空文庫

この文学上の努力は、複数的我のこわれた当初、自分をとらえかけていた一つの危機を切りぬけさせ、私ぬきで正当であるから正当であると云わせ、感じさせる方向におし出した。

文学におけるこういう必要は、生活的な場合にも同じ必要を感じさせ、自身としての一つのプログラムを与えた。あらゆる場合、必要さけ難い以上の壮言は行わず、しかし健全性の根は決してほじくりあげられて枯らさないように。自分はどんなことがあっても作家であって、アクロバットの芸人ではないのであるから。女及び作家として身につけているだけのことは、人間が人間以外のものであり得ないと等しいのだから。

生活の或期間、そのプログラムで一貫した。

ローマの法王庁の或祝祭で、法王が立っている最上の段階まで大理石の数千の段を参詣人が這ってのぼって行って、その裾に接吻する式がある。その中でもしまともに歩いて階段をのぼる者があれば、それが自然であるとしても、目立つということになる。(余談ながら、ルーテルは、この式に列して非常な懐疑にとらわれた由)文学的な仕事も依然として自然発生的な洞察力みたいなものに導かれつつもやや勉強法が分って来て、文学における日本的なものの擡頭の時期は、少しは歴史そのものの即しての文学的言説を行うことも出来た。