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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

路地を入ると、ふと、玄関に人の出入りしたらしい、雪の上の靴跡に気付いて、胸をおどらした。――誰かが訪ねて来たのだ、兄さんの消息がわかるかも知れない! それとも郵便なのだろうか?

郵便箱をのぞいて見ると、中は空っぽだった。

「ただ今!」

と玄関をのぞいたが、三和土の上に、とけかかった雪が散らばっているだけで、べつに客のいる気配もなかった。

「おかえんなさい、まあひどい雪!」

お勝手で、水仕事をしていたらしい小母さんは、たすきをかけたまま、濡れた手を拭きながら出て来た。

「誰か訪ねて来たでしょう、小母さん」

「ええ、来ましたよ、たった今お帰りになったばかりですから、そのへんでお遇いになったかも知れませんね」

なあんだ、鳥尾の小父さんか――と、思ったが、先刻そんな話もしなかったところから見ると、鳥尾大尉ではないらしい。

「どんな人、いったい……」

「そうそうそれをお話ししなくっちゃ、途中で遇ってもおわかりにならないはずですね、ほほほ」

小母さんは、茶箪笥の上から、一枚の名刺をとり出して来た。

それにははっきりした活字で、「村山作太郎」と印刷してあるだけで、肩書も住所も入っていなかった。