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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
腫れあがった唇のあいだからの呟きで、はっきりしてはいないが、青木の耳には聞えたのだろう、彼は眼を細めて栄二を見た。青木功之進は二十七か八、痩せがたで背丈が高く、細おもての浅黒い顔は、際立って目鼻がはっきりしていた。いかにも自制心と意志の強さを示しているような顔つきであった。
「住居があり、身許引受人がいるなら、このまま帰してやろう」と青木は忍耐づよく云った、「住居はどこだ」
栄二は答えなかった。
「黙っていてはなにもわからない、どうしても返答をしないなら、奉行所へ曳いてゆかなければならないぞ」
だが栄二は答えなかった。
「目明しが手荒なことをしたようだ、それではらを立てているのだろうが」と青木はなお穏やかに云いきかせた、「よく聞くがいい、役目で不審な者をしらべるには、来客をもてなすようなわけにはいかない、多少の違いはあっても、いずれは手荒な手段をとらなければならないだろう、おまえが強情を張れば張るほど余罪ありと疑われ、やがては牢問いにもかけられなければならない、そこをよく思案したうえ、仔細を残らず話したらどうだ」
栄二の着物から湯気がたちはじめ、躯にあたたかみが感じられると、全身の筋肉や骨のふしぶしが、熱をもったように痛みだした。