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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
町奉行などの手にかかって、名をなのらずに済むという筈はない。おそらく、青木という二人の与力が、なにか考えるところがあって特別な扱いにしたのであろう。それはこの寄場の役人にも通告され、さらにもっこ部屋の小頭たちにも耳打ちされたようで、口では悪く云ったり、いろいろあてつけがましいことをしたりするが、暴力をふるうとか、むりに仕事を押しつけるようなことはないし、栄二が意地になって反抗しても、かれらのほうで相手にならなかった。
初めの五十余日は、寄場の南の護岸工事をやらされた。この石川島はほぼ三角形で、東に石川大隅守の屋敷、西に佃島が、それぞれ堀を隔ててあり、北が大川口、南には海がひろがっていた。大川口のほうは舟松町、十軒町、明石町などの町家が、広い川のかなたに平べったく並んでいた。――その北に面したほうに舟着きと門があり、門の左右に収容者たちの長屋が建っている。長屋は東側にもあり、そこには湯舎も設けられていた。門からはいると正面に役所と役人たちの居住する家があり、ほぼ三角形の中庭のかなたに、見張りの番所がぽつんと建っていた。それはこの地内の中央で、人足たちの動静を看視するのにもっとも都合のいい位置にあった。