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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「おめえ自分でそういうめにあったか、といってやればよかった」栄二は肱枕で横になりながら、口の中でそっと呟いた、「――おらあ立ちあがったとき、あのずくにゅうの禿頭を一つぶん殴ってやろうかと思った、そしてずくにゅうが怒ったら、辛抱しんぼうと云ってやるんだ、へ、与平の云いぐさじゃあねえが、他人の痛みなら三年だってがまんができる、てめえの知らねえ痛みに、知ったかぶりの講釈をするなってんだ」

そう呟いているうちに、栄二は自分の眼の裏が熱くなり、涙があふれ出てくるのを感じた。誰一人よせつけず、世間もあらゆる人間も敵だと思いきって、固い殻の中に閉じこもっている自分が、急に自分で哀れになったのである。――ほかの人足たちはもう寝床にはいっていて、中には鼾をかいている者もあった。その鼾の声を聞いていると、この広い世間に自分だけがたった一人でとり残されたような、息苦しい孤独感におそわれ、栄二はけんめいに嗚咽をこらえながら、着たままで夜具の中へもぐりこんだ。

病人置場から出て来た才次は、口から上を晒木綿で巻き、眼のところだけあけてある穴から、栄二を絶えず睨んでいた。ちょっとでも隙があったらとびかかろうと、全身で身構えているような眼つきであった。