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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
万吉はあらゆる物事を、金銭の高で評価する癖があった。
「才次をやっつけたときのよ」と万吉は云う、「あにいの勾配の速さってものは、まず小判一枚の値打ちってとこだな」
今日の天気は十三文だとか、次郎吉の野郎はびた銭一文の値打ちもねえとか、その話には一分払うぜ、などという類で、栄二もわれ知らず笑わされることがあった。
「あにいだけはよしてくれ」と或るとき栄二が云った、「おめえのほうがとし上だろう」
「あにいと舎弟はとしじゃあねえや」と万吉は答えた、「に組の纏持ちで大さんてえあにいがいたが、としはおれより三つも下だった、それがおめえてえした人間でよ、火事のときに纏を持って消し口に立った恰好なんぞ、掛値なしに千両ってとこだったぜ」
それからふと気がついたように、「おめえ初めて口をきいてくれたな、あにい」と云った。――慥かに、それから栄二は少しずつ人と口をきくようになった。もともと口数の少ないほうだったし、好きになれない者には相変らずだが、一人、二人というふうに、挨拶をしあう者が殖えていった。――それを誰よりもよろこんだのは与平であった。彼は出仕事の組に選まれ、島の外へ毎日でかけてゆくが、ときに菓子を買って来たりして、気の合った者二、三人と、茶を啜りながら話すようになった。