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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
栄二は気が挫けてきた。万吉の話によれば、こぶは手のつけられない乱暴者であり、松造とおとよの仲をやっかんで、二人が逢うのを覗きに来て邪魔をするという。それが事実なら、おれをここから追い払おうとするだろう。けれども彼は動かないし、その口ぶりも乱暴ではなく、むしろ当惑しているような調子だった。
おかしなぐあいだなと思い、栄二が男に話しかけようとしたとき、小走りに来る足音が近づき、清さんどこ、と云う女の声が聞えた。男は振り向いてここだと答え、闇をすかして栄二を見あげた。いそぎ足に来た女は、そこに栄二のいるのを見て立停り、息をきらしながら、この人だあれ、と男にきいた。
「もっこ部屋の者だそうだ」と男が答えた、「海を見に来たんだとよ」
「へんなことをきくようだが」と栄二は腕組みをした手をほどきながら男に云った、「――悪かったら堪忍してくれ、おまえさんは油絞りで、こぶっていう仇名で呼ばれる人か」
「そうならどうした」
「そして」栄二は女のほうへ手を振った、「こっちはおとよという人か」
男は立ちあがった。腰をおろしているときはわからなかったが、立ちあがったのを見ると、万吉の話よりはるかに大きく、背丈は六尺ゆたかであり、肩は雄牛のように厚く、肉が盛り上っていた。