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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

栄二はもちろん知らないと答えるだけだったし、さぶのことを気にする自分にもはらを立てた。

雨があがると、気候は急に暑くなり、一日おきの入浴のほか、まいにち行水を使うことが許された。十七人の出仕事もまた始まり、残ったもっこ部屋の者は、相変らず寄場内の雑役に追われた。

六月はじめの或る日、油絞りのこぶが暴れだして大騒ぎになった。栄二は繩や蓆にする藁束を、五人のなかまと船からおろしていたが、灰焼場のほうで人の叫びあう声と、役人たちの走りまわるのを見て、なにげなくそっちへいってみた。すると赤鬼の松田権蔵が向うから、手を振りながら来てどなった。

「来ちゃあいけねえ」と松田は叫んだ、「戻れ戻れ、けがをするぞ」

栄二のあとについて来た金太が、なんの騒ぎです差配さん、と呼びかけた。

「こぶの清七が暴れてるんだ」と松田はどなり返した、「もう三人もやられたが、あのくそ野郎は掛矢を持ってるからどうしようもねえ、くたびれるのを待つよりしようがねえんだ」

栄二はそれを聞きながらあるきだした。

「よせ」と松田は栄二には構わず、金太に手をあげて喚いた、「こぶのくそ野郎は気が狂って、たれかれの見境がつかなくなってるんだ、近よるな」