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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

こぶの顔が歪み、眼から涙のこぼれ出るのが見えた。栄二は静かにすり寄って、彼の手から掛矢を取りあげた。

「おらあ島ぬけをして、松造のちくしょうを叩っ殺してやるんだ」こぶは掛矢を取られたことも気づかないようすで、いまにも泣きだしそうに云った、「おとよはおれと夫婦約束をしたんだ、おらあおとよがいなくなっちゃ生きてる張合いもねえ、捉まって死罪になったって惜しいもんか、きっと島ぬけをしてあんちくしょうを殺してやるんだ」

「わかったよ、よくわかった」そう云って栄二はこぶの肩へ手を置いた、「だがいまこの場で島ぬけはできやしねえ、できねえこたあ清さんにもわかってるだろう、おめえ松造をやっつけるめえに殺されちまうぜ」

「いのちなんざ惜しかあねえや」

「おとよさんを松造に任せといてか」

こぶは顔を伏せた。

「清さんがここで死んじまえば、それこそ松造のやつはのうのうするぜ」栄二は心をこめてこぶの肩を撫でた、「おらあ清さんのみかただ、おれでよかったらどんな相談にものろう、約束するからここはがまんしてくれ」

こぶの清七はゆっくり頭をめぐらせて、倒れている三人の姿を眺めやった。

「おれには与力のうしろ盾がある」