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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「死んじまった鳥にうたわせることができるか」

「栄さんは鳥でもないし死んでもいないわ」とおすえは云い返した、「あんたがどんな辛いくやしいおもいをしているか、覚えのないあたしにはわからないかもしれないけれど、あんたがいなくなったあと、さぶちゃんがどんな気持であんたを捜しまわったか、さぶちゃんの手紙を読んで、あたしがどんな気だったかも、あんたにはわからないでしょ、――そこをお互いにわかり合おうとすればこそ、友達があり夫婦があるんじゃありませんか」

「無事にくらしているうちはな」と云って栄二は立ちあがった、「――おれの気持はもう話した、おめえもこれっきり来てくれるな、さぶにも来るなと云ってくれ、いいな」

「さぶちゃんのことは知りません」おすえは涙を拭いて、きっぱりと云った、「あたしはあたしのしたいようにします」

栄二はそこにひろげてある品に眼もくれず、黙って廊下へ出ていった。

三十日の押籠めが解けると七月になった。もっこ部屋では栄二を祝うため、みんなの手銭で酒を買った。差配役に頼んで特に眼をつぶってもらったのだが、赤鬼の松田権蔵は例によって毒づいたのち、自分も幾らかの銭を出した。