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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

油紙を張った箱提灯は風から囲ってあるため、役人たちの姿は見えるが、中庭のほうへは光がささなかった。

「みんな揃ったか」と縁側の上から岡安喜兵衛が云った、「女はどこにいる」

こちらに揃っていますという答えが、人の群れの端のほうで聞えた。

「男どももみな揃いました」と松田権蔵がどなった、「数を読みますか」

「揃っておればよし」と岡安が云った、「これから御奉行のお話がある、おちついて静かに聞け」

寄場奉行は五十二、三の痩せた長身の男で、身分はおめみえ以上、江戸町奉行の下奉行格であった。

「私が成島治右衛門だ」と奉行はよくとおる声で云った、「この暴風に加えて、いま一刻もすると満潮になるから、ここにいては生死もおぼつかない、それゆえ奉行の一存によってそのほうどもを一旦めし放しにする、但し、町奉行の許しなくしてめし放すのだから、七日の内には帰ってまいれ、一人でも逃亡して帰らない場合には、私は切腹して責任をとるつもりだ、わかったか」

大川のほうに伝馬が三艘ある、病人と女を先に、順を守って出ろ、と言葉をむすんだ。人足たちのあいだから、驚きとも恐怖ともつかないどよめきが起こり、かれらは浮足だって崩れだした。