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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

田圃や川のまわりには螢がいっぱいいて、夜などあるきに出ると、足の踏み場に困るほどである。母や兄嫁も親切にしてくれるから、安心して養生ができること、腸を患ったときはまいったが、脚気は田舎の土を踏めば治るというとおり、九月ごろにはすっかりよくなると思うこと。兄嫁が七人めの子を産んだので、家の中はいよいよ狭くなり、自分はいま物置で寝ること、などが順序もなく並べてあった。

「また追い使われているんだな」と栄二は呟いた、「ゆっくり養生ができるなんていうが、畑や田圃で働かされ、夜は物置で寝かされてるって、いつまでもしまらねえやつだ」

おそらく栄二に心配させまいとして、そんなふうに書いたのだろうが、それを信じさせるような文章を綴る才はない。気楽なように書けば書くほど、彼の辛い明け昏れがあらわに感じられた。栄二は四通めを読み終って、それを巻き戻そうとしたが、急に「お」と云って、その文字を見まもった。子供の手のようにぶきような字だと思ったが、ふと気がついて見直すと、ぶきようでいながら、どこかにふっくりとした気取りのない味があった。

「へえー」栄二は他の三通をもひろげて見た、「おかしなもんだな、こいつはどっかで見たことのある字だぜ」