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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「よしゃあがれ、おれに構うな」と低い声で叫ぶこともあった、「ほっといてくれ、おれは去年の暮に死んだも同然なんだ、どんなにおだてたってこの気持は変りゃあしねえ、うっちゃっといてくれ」
「へ、砂金掘りか、くだらねえ」と冷笑し、肩をすくめる、「――まじめに砂金を持って交換にいき、帰りに熊にやられて死んだ男は不運か、しかもなかまの二人は騙されたと思って、その男を呪いさえしたっていう、ちげえねえ、慥かにそいつは不運だろう、しかし、それがこのおれとなんのかかわりがある、冗談じゃあねえ、こっちは人間どうしのこった、金持が金の力で、目明しがお上の威光をかさに、なんの咎もねえ者を罪人にし、半殺しのめにあわせたんだぜ、――その男を殺した熊はけだものだが、こっちは現に江戸市中で、大手を振ってのさばってるんだ、あいつらに思い知らせてやらねえうちは、おらあ死んでも死にきれねえんだ」
栄二の眼から涙がこぼれ落ちる。彼は唇をひきむすんで嗚咽をこらえ、海のかなたへ眼をやりながら、そっと頭を左右に振る。あくまで青く澄んだ海の上を、大きな帆をあげた船が何十艘となく、房州のほうから品川のほうへと、群れをなしてすべっている。