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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

みんなのけんめいな掛け声とともに、石の一つが取りのけられ、すると、それなりにもちあっていたつりあいが変ったのだろう、他の石がぐらっと揺れて、栄二の上へずり落ちた。

「気をつけてください」と与平が泣き声で叫んだ、「むやみにどけると却って石が崩れちまう、梃子を入れましょう」

「ぶしゅう」と伝七が喉にからまった声で、石と石の隙間から呼びかけた、「返辞をしてくれ、大丈夫か、生きているか」

「あー」と用心ぶかく栄二が答えた、「大丈夫だ、ゆっくりやってくれ」

「もうすぐだからな、頑張れよ」

あげ潮のことを云おうとして、栄二は口をつぐんだ。石に敷かれている右足の甲が濡れはじめたのを感じた。初めは自分の血かと思ったが、それは爪先から甲まで浸してきた。海水は砂の上からあげてくるだけではない、砂の下からも滲み寄せてくるのだ。

「だめだな」と栄二は自分に囁いた、「掘り出されるまえに溺れちまうだろう、石をどければほかの石が崩れてくる、どっちにしろもうおしまいだ」

梃子を入れようと与平が云った。その梃子だろう、杭に使う杉丸太が、石と石の隙間から静かに差し込まれた。それは栄二の太腿のところへ当り、それから脛のほうへさがった。