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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
こういう考えが心にうかぶと、彼はなんとなく胸がひろがって、呼吸が楽になるように感じ、また、新しく眼の前にあらわれた広い展望の山河が、少しずつ見わけられるようなおちつきを感じた。
けがをしてから二十日ほど経った或る日、岡安喜兵衛がみまいに来た。栄二は起き直って礼を述べた。足は副木を当てた上から晒木綿が巻いてあるので、まだ坐ることはできなかったが、三日まえから、食事のときは起き直って喰べるようになっていた。
「おすえという娘が、ずっとたずねて来ていたことは承知だろうな」と岡安は続けて云った、「――きまった日にきちんと、差入れの品が届いていたから知らない筈はないと思うが」
栄二は俯向いて「へえ」と答えた。
「じつを云うと私も、おまえがけがをしたことは黙っていた」と岡安は云った、「――あの娘に心配させては可哀そうだと思ったからだ、けれどもこのまえ、けがの経過が順調だと聞いたので、あらましのことを話した」
栄二は眼をあげて岡安を見た。
「すると今日」岡安は栄二の眼を穏やかに見返して続けた、「おすえの代りに、いつかのさぶという者が来た、いまこの表まで来ているのだが、会ってやるだろうな」