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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

とおのぶが囁くように答えた、「向う両国に常盤楼っていうお店があるでしょ」

「聞いたことがあるだけだ」

そこの板前で徳さんていう人がいる。としは三十五で、すみよしの亡くなった亭主と古い知合いらしく、ときどき飲みに来ていたが、その男をおのぶの婿にして、すみよしをやってゆこうという話になった。

「三十五なんてとしもいやだわ」とおのぶは続けた、「そんなおじいさんと夫婦になるなんてきみが悪いし、おまけにその人酒に癖があるの、怒りっぽいし、怒るとすぐに乱暴をするのよ、あたし死んだってあんな人のおかみさんにはならないわ」

「そう肚がきまってるんなら、なにも困ることはないじゃないか」

「それがそういかないから、栄さんの知恵を借りに来たのよ」

「可哀そうに」と栄二は苦笑いをした、「三十五でおじいさんか」

「まじめに聞いてよ」とおのぶが云った。

十一の六

「こっちはまじめだよ」と栄二は云った、「三十五のおじいさんなんていうのは、のぶ公が相手を嫌ってるからだ」

「それはもう云ったわよ」

「そんならなにを困ることがある、さぶにけじめをくわせたとおり、はっきりいやだと云えばいいじゃねえか」

「それで済めば相談になんか来やあしないわよ」