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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

だから側へ寄るな、と栄二は云った。

半月ほど経つうち、義一の誘惑に負けて花札へ手をだす者が出はじめた。金太がまず茣蓙の前へ坐り、参平や武や富三郎、それによその部屋からも二人三人と加わるようになった。――栄二は生れつき賭博というものに対して、恐怖に近い嫌悪感をもっていた。芳古堂の親方もまた賭け事が嫌いで、弟子たちが夜の茶菓子を買うとき、使いにゆく者をきめるあみだくじさえ禁じるくらいであった。酒や女の道楽はいつかやむが、賭け事は生涯やまないものだ、賭け事をする人間は芳古堂には置けない、とつねに繰返していたし、現に賭博に熱中したため義理の悪いことをして、店にいられなくなった者が幾人かいたものだ。――義一のまわりに集まって、撒かれたりめくられたりする花札の一枚々々に、息もつけないほどひき入れられているかれらを眺めるたびに、栄二は身を誤っていった兄弟子たちの姿を、そのままそこに見るような気がした。

――こんなことがいつまでも続く筈はない、まもなく役所のほうへ知れるだろう。

栄二はそう思っていたが、まもなく、自分の考えが浅かったことを知った。義一がそうするには、それだけの手が打ってあったらしい。