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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「すみよしへはもういかないのか」
「ときたまいくよ」とさぶが答えた、「おのぶちゃんの気持を聞いてっから、妙な話だが、おらあ自分でもおかしいほどさばさばしちゃった」
「自分をごまかすのはよくねえぞ」
「ごまかしじゃあねえ、ほんとなんだ」とさぶは云った、「好きなことはむろん好きさ、一生おのぶさんのことは忘れねえだろう、けれどもさばさばした気持になったことも本当なんだ」
「よかろう」栄二は調子を変えた、「暮の二十六日だかにのぶ公が来て、なにか困ったことができたように云ってたが、おめえなにか知らねえか」
「困ったことって、なんだろう」さぶはちょっと考えてから云った、「おらなんにも気づかなかったが、――おとつい寄ったら、坂本二丁目にうちを借りたってこと、云い忘れたって云ってたよ」
「なんだ、坂本二丁目のうちとは」
「おれたちのうちさ、横丁の古い二戸建てなんだが、もと桶屋が住んでたんだって、仕事場に使える板の間があるんだ」
「ちょっと見ろよ」と栄二は海のほうへ顎をしゃくった、「もう汐干狩をやってるぜ」
二人は南の海端へ来ていて、すぐ向うの、一里も潮がひいたかと思える広い干潟に、貝を拾う人の姿があちらこちらに見えた。