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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「あたしは酒はだめなんだよ」
「まあいい、お別れだから受けてくれ」
ではまねだけ、と云って与平は盃を持った。膳の上にはなにかの酢味噌と、菜の胡麻あえと、雑魚の佃煮などが並んでいた。
「与平さんに会えただけでもよかった」と栄二は云った、「みんなにもずいぶん厄介をかけたが、与平さんには一生かかっても返せないような恩になったからな」
与平は手を振った、「わたしがなにをしたもんか、そんなことより栄さんのこんどしてくれたことのほうが、よっぽどみんなのために有難かったよ」
与平は酒を啜り終って、盃を置き、栄二に酌をした。栄二はちょっと口をつけただけで、その盃を持ったまま与平を見た。
「口で云ってもはじまらねえが、おれがここを無事に出るときがきたら、与平さんにもいっしょに出てもらい、いっしょにくらすつもりでいたんだ」
与平は徳利を持ったまま、おどかされでもしたような眼で栄二を見返した。
「こんなことになってはそれもお流れだが、もしも仮に、おれが牢から早く出られ、与平さんがまだここにいてくれたら、おれはきっと迎えに来るよ」
「有難うよ、有難う」与平は頭をさげた、「そう云ってくれるだけでたくさんだよ」